自前で社内システムのハードウェアとネットワークを調達管理する従来のオンプレミス形態から、クラウド移行が急速に進みました。2019年調査*1では過半数の企業がクラウド移行を選択しています。クラウド移行にあたって、意外と盲点になるのが「クラウド接続サービス」です。
目次
1.クラウドサービスの最新の利用動向
コロナウイルスの世界的まん延によって、多くの企業は従来からあるオンプレミス形態の見直しを迫られました。リモートワークの拡大をトリガーとしたICT導入によって、個人レベルではビデオ会議やグループウェア、そして、モバイルコンピューティングの利活用という変化をもたらしました。
この変化は、社内システム、特に従来社内に閉じたオンプレミス環境で共有していたビジネスデータを社外からアクセスできるようにし、かつ、セキュリティの強度は従来のオンプレミス環境通り確保する必要に迫られています。また、厳しい経済状況を鑑みて、オンプレミス形態のシステム維持管理にかかるコストは極力軽減することも求められています。
コロナ禍の前から、オンプレミスのサーバーの管理維持コストを削減する手段として、クラウドサービスを導入する企業が増えていました。以前は「社内データを外部のサービスに保存するのは不安」という理由でオンプレミスからクラウド移行に消極的な企業が多数でした。しかし、社内に大規模なオンプレミスのサーバー資産を保有することで発生する管理維持コストの削減メリット、高速ブロードバンド回線の普及、ネットワークセキュリティ技術の定着、そしてなにより、クラウドサービスに対する信頼性向上によって、オンプレミスからクラウドサービスに移行する企業は急速に増えています。総務省の情報通信白書令和二年度版にある「企業におけるクラウドサービスの利用動向」によると、クラウドサービスを利用する企業の割合は2015年に44.6%だったのが、2019年には64%と過半数を超えています。(補足まで、過半数を超えたのは2017年調査からとなります。)
企業のクラウドサービスの利用動向
*1 出所:情報通信白書(令和二年度版)
2.オンプレミスとは
一方で、クラウドサービスに移行していない従来型のオンプレミス形態の社内システムでは、サーバーを自前で調達して社内に設置し、情報システム関連部署で導入から維持管理を実施していました。クラウドサービスが普及するにつれて、この従来型の「自前サーバー」の形態を「オンプレミス」と名付けて区別するようになりました。今や一般的な言葉となったクラウドと比べて、オンプレミスという言葉はなじみがなく、IT、特に企業系ITの専門用語として狭い領域でしか使われていないので、新しい概念だと認識している人が多いようですが、オンプレミスの実態は、以前から存在するものに新しいラベルを張り付けたものに過ぎません。
オンプレミスはサーバーからネットワークまで社内でシステムを構築できるので、構成や機能をすべて自在に設定できます。また、システムとネットワークを社内で完結させることで閉鎖環境を構築できるため、強固なセキュリティを確立できます。
一方で、オンプレミス形態ではサーバーというハードウェアを社内に設置するため、設置、設定、導入、メンテナンス、管理といった労力とコストを必要とします。さらに、常に進化し続ける半導体を基幹とするハードウェアという性質上、旧式化した場合には最新世代のハードウェアに自分たちで更新しなければならないという宿命をオンプレミスは持ちます。前世紀の企業向け基幹サーバーはホストコンピュータやフレームワークであったため更新コストは莫大でしたが、現在はx86系ワークステーションが基幹サーバーの主流となっています。とはいえ、ホストコンピューターやフレームワークほどではないにしろ、オンプレミスでは更新にあたって多額のコストがかかるのは変わりません。
これまで、オンプレミス形態における企業サーバーの更新タイミングはハードウェアの老朽化やOSの世代交代、そして増税でした。直近でいうと2017年から2019年がそのタイミングでしたが、ICT市場調査コンサルティングを手掛けるMM総研が2020年6月に出したレポート「2019年度国内PCサーバ市場調査」によると、国内PCサーバーの出荷金額は2019年の消費税増税に備えて2017年から2018年にかけて増加しましたが、更新需要が一巡した2019年には減少に転じました。
国内PCサーバ出荷金額と平均単価の推移および予測
出所:MM総研「2019年度国内PCサーバ市場調査」
さらに、ITコンサルティングと市場調査を手掛けるアイ・ティ・アールが2020年4月に発表したレポート「国内のERPの提供形態別とパッケージ製品の運用形態別での市場規模推移および予測」によると、オンプレミスの市場規模は2017年の549億円から2019年の486億円と減少し続けており、この傾向は今後も続くと予測しています。
ERP市場規模推移および予測:提供形態別(2017~2023年度)
3.盲点になりやすい「クラウド接続サービス」
以上のように、主にオンプレミス形態におけるサーバー関連ハードウェアの調達、維持、管理にかかるコストと労力を削減するという観点から、オンプレミスからクラウド移行は今後ますます主流となります。では、いよいよクラウド移行を検討する場合、重要になるのは「どのクラウドサービスを利用するのか」「社内システムのどの部分をクラウドに移行するのか」「クラウドサービスと社内ネットワークの接続をどうするのか」といったポイントです。ここで盲点になりやすく、かつ、サーバー機能のパフォーマンスに大きく影響するのが、クラウドサービスと社内ネットワークをつなぐクラウド接続サービスです。
事業者や契約プランによっては、公衆網経由で社内ネットワークとパブリッククラウドを接続する場合があります。こうした「ベストエフォート」の接続では回線のパフォーマンスが確約されないため、時間帯や他ユーザーの利用状況によって回線の輻輳によるデータ通信速度は低下のリスクがあります。
例えば、始業時間直後にはメールの送受信やメッセージ交換、さらには個別端末ごとのデータ同期が集中します。これらの業務は定例作業なのでできれば短時間で済ませたいところですが、帯域が輻輳することでデータ通信速度が低下し、そのため、処理に時間がかかってスタッフのストレスが増大する、という負のスパイラルになりがちです。加えて、不特定多数が同時利用している公衆通信回線を用いることで、悪意のある第三者による情報漏えいのリスクも考えなければいけません。
このようなリスクを回避するため、クラウド接続サービスを提供している事業者の中には、専用線接続プランを提供している場合もあります。専用線の場合、先述のケースのようにビジネス利用が集中した場合でも回線は輻輳せずデータ通信速度は一定の速度が保たれます。社内ネットワークとクラウドサービスも閉域網ネットワークとなり高い安全性が担保されます。なお、ここで「専用線」と表現していますが、実態としては、データセンターやオフィスといったクライアント環境とパブリッククラウドとを事業者がネットワークで接続しています。
通信事業者であるColtは、「クラウド接続サービス」を提供しています。Coltはクラウドプロバイダー各社とパートナーシップを締結しており、AWS Direct Connect、Azure ExpressRoute、Oracle FastConnect、Google Cloud Interconnect、IBM Cloud Direct Linkを始めとする各種クラウドへの閉域網接続をご利用いただけます。
4.クラウド接続サービスを選ぶ基準
先述のように、企業の生産性やビジネス継続性に影響を与えることなく、ネットワークセキュリティとデータ通信速度を確保しつつオンプレミスからクラウドサービスに移行する場合、クラウド接続サービスの存在が意外と重要になることが分かります。
では、数多くあるクラウド接続サービス提供事業者から何を基準に選べばいいのでしょうか。導入企業の規模や利用目的に依存するところが大前提ですが、事業者選定において重要なのは「信頼性があること」です。これはネットワークスペックの他に、物理的な条件、例えばクラウド接続サービスを実際に提供するデータセンターの堅牢性やシステムの冷却能力、災害発生時の事業継続性なども重要な確認項目となります。
また、そのサービスが接続できるパブリッククラウドの種類や実績も重要です。これからベンダーを検討する場合にはAWSやMicrosoft Azure、IBM Cloud、Oracle Cloud、Google Cloud、Alibaba Cloudといった各種パブリッククラウドへの接続が可能かどうか、また、どの程度の接続実績があるのか、といった点も確認が必要でしょう。
まとめ
これまで、社内でサーバーからネットワークまで完結するオンプレミスの形態は、堅牢なセキュリティを担保できる一方で維持管理に多大なコストを必要としていました。一方、AWSに代表されるパブリッククラウドは回線の安定性やセキュリティが担保されないという企業側の危惧も存在していました。
それらの課題を解消するもう1つの選択肢、オンプレミス環境からパブリッククラウドへ直接接続し、パブリッククラウドをオンプレミス環境のように運用できるクラウド接続サービスを本記事では紹介することで、企業のIT環境の構築のヒントになればと考えています。
関連サービス
Coltはクラウドプロバイダー各社とパートナーシップを締結しています。