AIOpsとは?特徴と導入メリットを事例でわかりやすく解説

現代のIT環境は急速に複雑化し、従来の手動運用では限界を迎えています。クラウドサービスの普及やIoTデバイスの増加により、システム管理の難易度は飛躍的に高まりました。この課題を解決する革新的なアプローチがAIOpsです。AI技術を活用してIT運用を自動化・効率化するこの手法は、多くの企業から注目を集めています。

本記事では、AIOpsの基本概念から具体的な特徴、導入によるメリットや活用事例まで詳しく解説します。

1.AIOpsとは

AIOpsとは「Artificial Intelligence for IT Operations」の略称です。AI技術と機械学習を活用してIT運用業務を自動化し、効率化する手法を指します。従来の手動運用では対応困難な複雑なシステム環境において、AIが膨大なデータをリアルタイムで分析します。

現代のIT環境が抱える課題は多様です。クラウドサービスの普及によりシステム構成が複雑化しています。セキュリティ強化の必要性も高まり、監視項目が増え続けています。さらにIoTデバイスの爆発的増加により、管理対象デバイス数も膨大になりました。

これらのシステムから生成されるデータ量は膨大で、従来の手動監視では限界があります。人手による監視では24時間365日の継続監視が困難です。大量のアラートから重要情報を見極めることも難しくなっています。

AIOpsはこうした課題に対処する有効な解決策として位置づけられています。AIにより人間では処理しきれない大量データを効率的に分析できます。IT運用の品質向上と効率化を同時に実現することが可能になります。

2.AIOpsの特徴

AIOpsは従来のIT運用手法とは大きく異なる革新的な価値を提供します。ここでは、AIOpsの主要な機能と技術的特徴について詳しく解説します。

2-1 リアルタイムでのパフォーマンスの監視と分析

AIOpsは、サーバーやネットワークやアプリケーションの稼働状況をリアルタイムで監視します。各種メトリクスデータを自動収集し、過去の傾向を分析します。CPU使用率や応答時間などを時系列で把握し、「どの時間帯に負荷が増えるか」などの予測も行います。これにより、リソースの最適化や事前調整が可能です。結果として、サービスの安定性を保ち、ユーザー満足度を向上させます。

2-2 高度な異常検知機能

AIOpsの重要な特徴は、膨大なデータから異常をリアルタイムで検知できることです。AIがパターンを学習し、従来のルールベースのシステムでは見逃しやすい微細な変化も捉えます。これにより、問題の早期発見と対応が可能です。異常検知の精度は、経験とともに向上します。蓄積されたデータにより、より正確な判定を行います。

2-3 根本原因の迅速な分析

システム障害が起きたとき、根本原因の特定は復旧の鍵です。AIOpsは、ログやイベント、メトリクスなどの情報を総合的に分析します。過去の類似事象との相関により、「どこで問題が発生したか」「なぜ起きたのか」を自動推定します。これにより、担当者は大量データの調査から解放されます。迅速な原因追及が、ダウンタイムの短縮に貢献します。

2-4 ITサービス管理の最適化

AIOpsは、ITサービスマネジメント(ITSM)と連携します。インシデント発生時、過去の対応記録や影響範囲をAIが解析し、最適な解決策やエスカレーション先を提案します。同じ問題が繰り返された場合はパターンを自動で特定し、改善策を導きます。これにより、運用の効率化とともに、再発防止にも役立ちます。

2-5 クラウド環境の自動化と最適化

AIOpsはクラウドインフラの自動管理を促進します。サービスの負荷やトラフィックに応じて、リソースの自動プロビジョニングを行います。クラウドの使用状況のモニタリングにより、必要に応じて容量を調整します。これにより、柔軟性と俊敏な運用が可能となり、クラウド導入の効率が向上します。

3.AIOpsのメリット

AIOpsの導入により、組織は多様なメリットを享受できます。これらの効果はIT運用の効率化だけでなく、ビジネス全体の競争力強化にも大きく寄与します。効率的な運用基盤の構築により、企業の成長戦略をより確実に実現することが可能になります。

3-1 クラウド環境の自動化と最適化

AIOps技術を導入することで、これまで人間の手作業に頼らざるを得なかったIT運用の各種業務が、AIによって自動処理されるようになります。作業量の大幅な削減効果が生まれることにより、現場スタッフはこれまでとは違った戦略構築や創造性を要する重要な業務へと注力することが可能となるのです。

AIOps導入後の変化

従来の運用 AIOps導入後
手動でのアラート確認 自動フィルタリング
経験に依存した故障対応 AIによる予兆検知
時間のかかる原因調査 自動根本原因分析
属人的な対応策検討 システムによる対応策提示

システムは、アラートの選別作業から始まり、障害の前兆を察知し、問題の根源を突き止め、解決方法を示すという一連のプロセスを完全に自動実行します。これにより、運用担当者が行ってきた点検業務や緊急時の初期対応における作業負担は格段に軽くなるでしょう。

その結果として、情報システム部門では人的資源を新規企画の立案や開発作業、さらには戦略的な取り組みへと振り向けることが実現します。部署全体における業務効率の飛躍的な改善が見込まれ、会社全体の発展に寄与する新たな価値の創造が実現可能となるのです。

3-2 業務とサービス品質の向上

AIOpsによって、リアルタイムでの異常検知と迅速な原因追及が実現します。これにより、トラブルの頻度と影響範囲を抑え、システムの安定した運用を維持することが可能となります。

また、社内のシステムやサービスの稼働率向上は、ユーザー体験のクオリティを大きく引き上げます。特に外部向けサービスを展開している企業にとって、信頼性の高さは競争優位を築く重要な要素となるでしょう。システムの可用性改善により、ビジネスチャンスの逸失を未然に防ぐことも可能です。

3-3 故障対応時間の劇的な短縮

AIOpsは障害発生時に、関係するログやメトリクスを即座に収集し、分析を行います。このプロセスにより、根本原因の特定が驚くほど迅速になり、システムの復旧時間を大幅に短縮することが可能です。

従来、多くの時間を要していたトラブル対応も、今では数分から数十分程度で解決される事例が増えています。こうした対応のスピードアップは、システムのダウンタイムを抑えることに直結し、結果としてビジネスにおける損失リスクを格段に軽減します。

3-4 総合的なコスト削減

AIOps導入の真価は、運用コスト削減の即効性と人材活用の戦略性にあります。特筆すべきは、夜間・休日監視の完全自動化によるオンコール体制の最適化と監視要員の効率化です。これこそが次世代の組織運営モデルと言えるでしょう。

4.AIOps導入のステップ

AIOps導入を成功させるためには、計画的で段階的なアプローチが不可欠です。ここでは、導入準備から運用開始まで必要な5つのステップを詳しく解説し、各段階で注意すべきポイントと具体的な実施方法をご紹介します。

4-1 目的の明確化

AIOps導入を開始する前に、導入目的と達成したい目標を明確に定義することが重要です。この段階で曖昧な目標設定を行うと、プロジェクト全体の方向性が定まらず、期待する成果を得ることが困難になります。

具体的な目標設定例として以下のようなものが挙げられます。システム稼働時間を99.9%以上に向上させる。障害の予測精度を80%以上に改善する。IT運用コストを30%削減する。平均故障復旧時間(MTTR)を50%短縮する。

このように数値目標を含めた具体的な目的設定により、組織全体が一体感を持ってプロジェクトに取り組むことができます。また明確な目標があることで、AIOps導入後の効果測定や改善活動を客観的に評価することが可能になります。

目標設定においては、現在のIT運用における課題を詳細に分析することも重要です。どの業務に最も時間がかかっているか、どこで人的ミスが発生しやすいかを把握することで、より実効性の高い目標を設定できます。

4-2 データの収集・統合

明確な目標設定が完了したら、次にAIOpsの基盤となるデータの収集・統合を行います。企業のITシステムには多種多様なデータが存在するため、これらを一元的に収集し活用しやすい形に統合することが必要です。

収集対象となるデータの種類は多岐にわたります。サーバーやネットワーク機器のパフォーマンスメトリクス、アプリケーションログ、セキュリティイベント、インシデント履歴などが含まれます。これらのデータを効率的に収集するためには、既存システムとの連携やAPI接続の設計が重要になります。

データの品質向上のためには、統合前の前処理作業が欠かせません。ノイズの除去、フォーマットの統一、データクレンジングなどを実施することで、AIモデルの学習効果を高めることができます。

データ処理段階 主な作業内容
収集 各システムからの自動データ取得
前処理 ノイズ除去、フォーマット統一
統合 データレイクでの一元管理
品質管理 欠損値処理、異常値検出

データの質と量はAIOpsの成果に直結する重要な要素です。可能な限り多くの高品質なデータを継続的に収集・管理する体制を構築することが成功の鍵となります。

4-3 適切なツール・プラットフォームの選定

効果的なAIOps実現のためには、適切なITツールとプラットフォームの選定が重要です。データレイクやデータウェアハウス(DWH)などのツールを活用することで、データ基盤を効率的に構築できます。

プラットフォーム選定時には複数の観点から検討を進める必要があります。スケーラビリティの高さにより将来的なデータ量増加に対応できるか確認します。リアルタイム処理能力があり即座にデータ分析が可能かを評価します。ユーザーインターフェースが直感的で運用担当者が使いやすいかを検証します。

セキュリティ機能の充実度も重要な選定基準です。企業の機密情報を扱うため、データの暗号化や アクセス制御機能が適切に実装されているかを確認する必要があります。

既存ITインフラとの統合可能性も見落としてはいけないポイントです。新しいツールが既存システムと円滑に連携できるかを事前に検証し、導入後のトラブルを未然に防ぐことが重要です。

4-4 モデルのトレーニングと検証

選定したプラットフォーム上でAIモデルのトレーニングを実施します。過去の運用データを活用してモデルを学習させ、予測精度や異常検知能力を段階的に向上させていきます。

モデル構築プロセスでは以下の手順を踏みます。学習用データセットの準備と前処理を行います。機械学習アルゴリズムの選定と初期パラメータ設定を実施します。モデルの学習実行と初期性能評価を行います。

性能検証段階では、テストデータを用いてモデルの予測精度を客観的に評価します。必要に応じてパラメータ調整やデータ追加を行い、モデルの精度向上を図ります。この反復プロセスにより、実用レベルの性能を持つAIモデルを構築できます。

4-5 運用開始と継続的改善

最終段階として、AIOpsを実運用環境に組み込み本格的な運用を開始します。運用開始後も定期的なモデル性能評価と改善を継続することで、常に最新の状況に対応できるシステムを維持します。

継続的改善のためには、ユーザーからのフィードバック収集が不可欠です。システムの使いやすさや効果に関する意見を定期的に収集し、機能改善や運用プロセスの最適化に活用します。

また新たなデータソースの追加や、業務要件の変化に応じたモデルの再学習も重要な改善活動です。これらのステップを継続的に実施することで、AIOpsの効果を最大限に引き出し、IT運用の効率化と品質向上を実現できます。

5.AIOpsを成功に導く「オブザーバビリティ」とは?

オブザーバビリティは従来のモニタリングを発展させた概念です。システムの内部状態を包括的に把握し、高品質なデータを活用して問題の原因まで深く理解できます。

オブザーバビリティがAIOpsを効果的にサポートする仕組みは次の通りです。まず統合されたデータ収集により、複数のソースからの情報を一元化してIT環境全体を可視化します。次にコンテキストに基づくインサイトとして、メトリクスやログなど異なるデータ種別を関連付けてインシデントの背景を明確にします。これによりAIOpsはより精度の高い分析結果を提供できます。

さらにリアルタイム分析機能により、問題発生前の予兆を捉えて事前対応が可能になります。自動化プロセスの導入でデータに対するリスクを排除し、運用効率も向上します。高度なオブザーバビリティソリューションは不要なノイズをフィルタリングして、関連性の高い質の良いデータのみを確実に収集する機能も備えています。

オブザーバビリティとは何?その本質と重要性について解説

6.AIOps活用事例

AIOps技術は様々な業界で実際に導入され、具体的な成果を上げています。ここでは、セキュリティ向上、インフラ管理の効率化という2つの観点から、代表的な活用事例をご紹介します。

6-1 セキュリティインシデントの初動対応を迅速化

株式会社オージス総研は、独自に運用している認証システムにおいて、ログイン画面への総当たり攻撃というセキュリティ上の課題を抱えていました。攻撃を検知した際には即座にメンテナンス画面に切り替える必要がありましたが、経験豊富な運用担当者の判断に依存していたため、対応の遅延が問題となっていました。

この課題解決のため、認証サーバーが出力するログデータをAIOpsでモニタリングし、収集したデータをグラフ化する仕組みを導入しました。可視化によりインシデントを目視で早期に把握できるようになりました。

AIOpsの導入により、セキュリティインシデント発生時の初動対応を迅速化し、システムの安定性と信頼性を強化できた事例といえます。

出所:https://www.ogis-ri.co.jp/column/cloud_arch/c106668.html

6-2 運用負担の軽減とシステム運用の質と効率向上を同時に実現

株式会社NTTデータは、膨大化・複雑化するITシステム基盤に対応するため、AIを活用したAIOpsによるシステム運用の自動化に取り組んでいます。

社内のプライベートクラウド環境を対象に、AIOpsによる「予兆検知」「パフォーマンス監視」「根本原因の分析」「障害対処支援」を提供しています。特に予兆検知では、通常時と異なる挙動をAIで検知することで、障害発生前に仮想インスタンスを退避するなどの事前対応が可能になります。

こうした取り組みにより、突発的な障害の抑止、サービスの安定性向上、広範囲なシステムの自動監視を実現。運用者の負担を軽減しつつ、システム運用の質と効率を高めることを目指しています。

出所:https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2021/1104/

7.まとめ

AIOpsは、AI技術を活用してIT運用を革新する画期的な手法です。リアルタイム監視、異常検知、根本原因分析などの機能により、従来の手動運用では実現困難だった高度な自動化を可能にします。

運用効率の向上、コスト削減、システム品質の向上など多くのメリットがある一方で、導入コストや技術的な課題も存在します。しかし、IT環境の複雑化が進む現代において、AIOpsは企業の競争力強化に欠かせない重要な技術となるでしょう。

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