MoIPとは?SDIとの違いやネットワーク要件、活用事例を徹底解説

放送・映像制作の現場において、従来の「SDI」に代わる次世代規格として「MoIP(Media over IP)」への注目が急増しています。

MoIPは、映像や音声をIPネットワークで伝送することで、物理的な配線に縛られない柔軟な制作環境を実現します。特に、中継車や人員の移動コストを大幅に削減する「リモートプロダクション」は、業界の働き方改革を推進する切り札として期待されています。

 本記事では、MoIPの基礎知識やSDIとの違い、導入に不可欠なネットワーク要件、そして実際の活用事例までを徹底解説します。

1.「MoIP」とは?

放送・映像制作業界において、長らく標準とされてきたシステム構成を根底から覆す技術として注目を集めているのが「MoIP」です。

ここでは、その基本的な仕組みと、従来のSDI方式との決定的な違いについて解説します。

MoIPの概要

「MoIP(Mediaover IP)」とは、映像や音声などのデータをIPパケットに変換し、LANケーブルや光ファイバーなどのIPネットワーク上で伝送する技術です。

従来は同軸ケーブルでの「1対1」接続が基本でしたが、MoIPではネットワークスイッチを介して自由に経路を設定できます。これにより、1本のケーブルで多チャンネルの映像を送受信したり、遠隔地から機器を制御したりすることが可能です。

汎用的なITインフラを活用するため拡張性が高く、次世代の映像制作基盤として急速に普及が進んでいます。

現在の放送業界では、SMPTE ST 2110を中心としたオープン規格への移行が進んでおり、映像・音声・メタデータを個別のIPストリームとして伝送できるようになっています。また、AES67による音声伝送やPTP(Precision Time Protocol)による高精度な時刻同期技術が、MoIP環境を支える重要な要素となっています。

SDIとの違い

「SDI(SerialDigital Interface)」とは、同軸ケーブルを使って非圧縮の映像信号を送る、放送業界で長年標準とされてきた規格です。「SDI」と「MoIP」の主な違いは、拡張性と柔軟性です。

SDIは専用の同軸ケーブルで機器同士を物理的に直結するため、配線変更には手間とコストがかかりました。一方で、MoIPはルーターの設定変更だけで信号の行き先を瞬時に切り替えられ、物理的な配線作業が不要です。

従来の3G-SDIベースの4K伝送では複数本のケーブルが必要になるケースがありました。一方MoIPでは、光ファイバーなどのIPネットワーク上で複数の映像ストリームを柔軟に伝送できます。さらに、MoIPではインフラ部分に汎用的なIT機器を利用できるため、将来的なコスト削減や技術進化の恩恵を受けやすい点も大きなメリットです。

2.MoIP導入に適したネットワークとは?

従来のSDI環境と同等、あるいはそれ以上の品質で映像を伝送するためには、一般的なインターネット回線やオフィス内LANとは異なる、厳しいネットワーク要件を満たす必要があります。

本章では、MoIPシステムを安定稼働させるために不可欠な3つの要件について解説します。

低遅延

スタジオ制作やライブ中継において、「遅延(レイテンシー)」は極力抑える必要があります。リモートプロダクションでは、遠隔地で撮影された映像を本社や制作拠点へリアルタイムに伝送し、スイッチングや編集を行います。この際、伝送遅延が大きいと、現場の動きと制作側の操作にズレが生じ、円滑な番組制作が難しくなります。

また、生放送で現場のレポーターとスタジオのキャスターが会話する場合なども、遅延を抑えることで、物理的な距離を感じさせない自然なコミュニケーションを実現できます。放送品質を維持するためには、安定した低遅延通信を実現できるネットワーク環境が重要です。そのためMoIP環境では、映像・音声データをリアルタイムで伝送するために、一般的なベストエフォート型インターネット回線ではなく、帯域保証型の専用ネットワークが適しているといえます。

低ジッター

「ジッター」とは、データが到着するタイミングの「ゆらぎ」のことです。

 映像データは一定のリズムで連続して届く必要がありますが、ネットワーク状況により到着間隔が乱れると、受信側での処理が追いつかず映像のカクつきや音飛びの原因になります。PTP(Precision Time Protocol)などの高精度な時刻同期技術を用い、すべての機器がマイクロ秒単位で同期し、常に一定の間隔で安定してデータを送り出せる堅牢なネットワーク環境を構築することが必須条件となります。

パケットロスが少ない

MoIPにおいて最も致命的なのが「パケットロス(データの欠落)」です。Web閲覧などと違い、リアルタイム性が求められる映像伝送ではデータの再送を待つ時間がありません。

少しのパケットロスが、画面のブロックノイズやブラックアウトに直結します。

そのため、帯域を確実に確保するQoS制御や、2つの経路で同時にデータを送る冗長化技術(SMPTE ST 2022-7)などを駆使し、限りなく「パケットロス」をゼロに維持する高品質な回線設計が求められます。

3.MoIP活用によるリモートプロダクションで現場はどう変わる?

MoIPの導入によって、映像制作現場ではリモートプロダクションの活用が加速しています。

これまでは「現場ですべてを完結させる」のが常識でしたが、MoIPを活用し、撮影現場と制作拠点をIPネットワークで接続することで、場所にとらわれない新しい映像制作方式が実現できます。

 具体的に現場がどう変わるのか、2つの大きなメリットを解説します。

人と機材の移動コストを大幅削減

MoIPによる「リモートプロダクション」の実現により、現場にはカメラと伝送機器、最低限のスタッフのみを配置し、編集やスイッチングは本社のスタジオで行う運用が可能になります。

これにより、従来必要だった大型中継車の派遣や、大量の機材輸送、数十人規模のスタッフの移動・宿泊費といったコストを大幅に削減できます。特に地方や海外などの遠隔地中継においてその効果は絶大で、浮いた予算をコンテンツのクオリティアップに回すなど、効率的な予算配分が可能です。

「働き方改革」の実現

スタッフが現場へ移動する必要がなくなることで、拘束時間が大幅に短縮され、業界の課題である長時間労働の解消につながります。移動時間がゼロになるため、例えば「午前はA会場、午後はB会場」といった複数現場の掛け持ちも可能になり、人材不足の解消や生産性向上に寄与します。

また、過酷な屋外環境ではなく、設備の整った局内オフィスで作業ができるため、従業員の負担が減り、ワークライフバランスの整った働きやすい環境を提供できるようになります。

4.MoIPの活用事例

株式会社テレビ朝日は、シンガポールで開催された国際水泳大会の中継において従来のユニキャストIP中心の中継方法から脱却し、マルチキャスト方式IP伝送の標準規格であるST2110技術をベースとしたMoIPの活用に切り替え、 MoIP技術を活用したリモートプロダクションの実施を検討していました。

MoIPで運用効率を向上

MoIP運用においては、低遅延であること、低ジッタ、つまりIPパケットの伝送遅延の値にブレが少なく一定値であること、そして基本的にパケットロスが発生しないこと、といった厳しい条件を満たすネットワークが必要です。Coltのネットワークは帯域保証型の専用線であり、これらの条件を満たす高品質な回線だった点が採用の決め手となりました。

柔軟な契約形態とリモートプロダクションでコストを抑制

同社は、シンガポールで開催される水泳国際大会の中継・配信を行うため、スイッチャーや音声ミキサーなどの機材輸送やスタッフの派遣にかかる手間や費用、さらに現地での回線調達といった作業を都度行っており、大きな負担となっていました。

マルチキャスト方式のMoIPでは、映像・音声データの複数機器への伝送がネットワーク上で帯域効率よく行うことができるので、高いコスト効果や効率化が可能です。ネットワーク帯域の許す限り複数の映像・音声を並行して伝送することが可能なので、撮影した映像のスイッチングや音声のミキシングの作業を現地ではなく日本のテレビ朝日本社で行う「リモートプロダクション」が実施できるようになりました。

また、基本的に期間限定で開催されるスポーツ大会において、オンデマンドで帯域を変更できるネットワークサービスを採用し、必要な期間だけ最適な回線を確保することでコストを最適化しました。契約期間の縛りなく柔軟に回線を利用、帯域幅も変更できるネットワークサービスを採用することで、コストの最適化を実現しました。日本と現地を高品質な専用線で結び、スイッチング等の作業を日本国内で完結させることで、機材輸送費や渡航費の削減や、制作スタッフの負荷も大きく軽減しました。出演者が遅延を感じないリアルタイムな掛け合いを実現しながら、環境負荷低減と高品質な映像伝送を両立させた先進的な事例です。

「MoIP技術を活用し、シンガポール現地で撮影した多回線の映像・音声を日本へリアルタイムで伝送し、映像切り替えなどの番組制作を日本で行う「リモートプロダクション」を実現しました。 映像や音声の伝送を現地キャリアに都度依頼する必要がなくなり、MoIPの強みを存分に活かせたと思います」 技術局 設備センター、近藤 佑輔 氏

Colt On Demandの導入により多数の映像を遅延なくスムーズに伝送し、高いコストパフォーマンスを同時に実現(株式会社テレビ朝日)

5.まとめ

リモートプロダクションの普及や放送設備のIP化を背景に、MoIPは次世代の映像制作基盤として導入が拡大しています。MoIPは単なるケーブルの置き換えではなく、コスト削減、業務効率化、そして働き方改革を実現する、映像制作ビジネスの変革手段です。

導入には「低遅延」「低ジッター・低パケットロス」といった厳しいネットワーク要件のクリアが必要ですが、それに見合う大きなメリットがあります。

MoIP導入の成否は、映像機器だけでなく、それを支えるネットワークインフラの品質によって大きく左右されます。特にリモートプロダクションや国際中継では、低遅延・低ジッター・高可用性を備えたネットワーク設計が不可欠です。

Coltは高品質な自社ネットワーク基盤を通じて、国内外の放送・メディア事業者のMoIP環境構築を支援しています。広帯域かつ低遅延なネットワークにより、リアルタイム性が求められる映像・音声伝送を安定して提供し、リモートプロダクションやIPベースの放送インフラへの移行を支援します。

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